SLV v0.9.911 で BAM クライアント運用に対応。Solana を機関投資家の利用に耐えうる透明な実行レイヤーへ
SLV v0.9.911 で BAM クライアント運用に対応。Solana を機関投資家の利用に耐えうる透明な実行レイヤーへ

ELSOUL LABO B.V.(本社:オランダ・アムステルダム、代表取締役 CEO:川崎文武)および Validators DAO は、オープンソースの Solana バリデータ運用基盤 SLV において v0.9.911 をリリースし、Jito Labs が開発する Block Assembly Marketplace(以下 BAM)クライアントの立ち上げおよび運用に対応したことをお知らせいたします。
本リリースにより、BAM クライアントの導入および切り替えを、再現可能な形で扱えるようになりました。属人的な構築手順や特定の運用ノウハウに依存せず、SLV を用いることで、BAM クライアント運用をワンコマンドで開始できる構成が提供されます。
なお、Epics DAO バリデータは、すでに SLV を用いて BAM クライアント運用へ移行しており、現在も継続して稼働しています。
BAM が目指すもの:オンチェーンで成立する検証可能な信頼

Jito Labs が開発する Block Assembly Marketplace(BAM)は、Solana がすでに備えている高速なオンチェーン実行を前提に、その実行がどのようなルールで行われたのかを、後から説明・検証できる状態を実装しようとする取り組みです。
Solana は、他のブロックチェーンと比較しても、トランザクション処理のスループットとレイテンシにおいて明確な優位性を持っています。しかし、ネットワークが成熟し、利用主体が拡大するにつれて、単に速く処理できるかどうかではなく、その処理過程がどのようなロジックに基づいて行われたのかを説明できるかどうかが、次の論点として浮かび上がってきました。
特に、機関投資家や業務利用を前提とする主体は、自己資金ではなく顧客資産や受託資産を運用しています。そのため、取引の結果だけでなく、なぜその取引がその順序で、その条件で執行されたのかについて、社内のリスク管理部門、外部監査人、規制当局に対して説明責任を負います。
これは理想論ではなく、伝統的な金融市場ではすでに実務として定着している要件です。最良執行の説明や Transaction Cost Analysis の提出は、その典型例です。どの取引所を使ったか、どの執行先だったかといった情報だけでは不十分であり、執行のロジックそのものが説明可能であることが求められます。
現在のオンチェーン実行環境では、トランザクションがどのようなロジックで並べられ、なぜその順序になったのかを、外部から第三者が検証することは容易ではありません。悪意の有無とは関係なく、この説明不能性そのものが、機関投資家にとっては利用を躊躇する理由になります。
BAM は、この課題に対して、トランザクションの順序決定を暗号技術によって検証可能な形に近づけることで応えようとしています。順序がどのロジックに基づいて処理されたかは証明できる一方で、BAM ノードの運用者自身がトランザクションの中身を把握したり、恣意的に順序を操作したりすることはできない設計が採られています。
BAM が目指しているのは、特定の運用主体を信頼するモデルではなく、処理ロジックそのものを検証するモデルです。これにより、オンチェーン実行は、速いという特性に加えて、説明できる、監査できる、提出できる実行環境へと近づいていきます。
現在の課題:自由度の高いがゆえの不透明なスケジューリング
現在の Solana では、トランザクションの順序決定に関して高い自由度が確保されています。実際に、複数種類のスケジューラが並行して動作しており、それぞれが異なるロジック、異なるタイミング特性、異なる優先順位付けを持っています。
この多様性は、実験や最適化の余地を生む一方で、外部から見たときに、どのルールで順序が決まったのかを一貫して説明することを難しくします。特定のクライアントや接続経路、運用形態によっては、外部から観測できない順序選択が行われている可能性を完全に否定することはできません。
重要なのは、ここで問題にしているのが悪意ではないという点です。たとえすべての運用が善意で行われていたとしても、説明できない、検証できない状態そのものが、機関投資家や業務利用にとっては受け入れられない前提になります。
短期的には問題が顕在化しなくても、この不透明さは執行品質や監査性に対する不安として蓄積されます。その結果、オンチェーンは個人利用や実験的な用途にとどまり、大規模な資本や業務利用が本格的に乗らない状態が続くことになります。
Ethereum の先行事例からの学び
同様の課題は、Ethereum でも先行して顕在化してきました。Ethereum では proposer-builder separation の導入によってブロック構築の競争が進みましたが、その過程でブロックビルダーの集中やオーダーフローの私有化が進行しました。
より良い執行を求める中で、ユーザーやアプリケーションは特定のビルダーとの私的な関係に依存するようになり、結果として順序決定の過程が外部から見えにくくなりました。この構造は、短期的には効率が向上する場面があっても、長期的には市場の不透明化と集中を招く結果になりました。
現在の Ethereum コミュニティでは、TEE を用いたブロック構築などを通じて、後から透明性を取り戻すための取り組みが進められています。これは、実行レイヤーにおける説明可能性の重要性が、事後的に認識された結果でもあります。
BAM は、これらの先行事例を踏まえ、最初から検証可能性と透明性を組み込むことを前提に設計されています。
SLV v0.9.911 が提供する実装上の前進
BAM の思想は、実装され、運用できなければ意味を持ちません。どれほど正しい設計であっても、運用が難しく、一部の主体にしか扱えないのであれば、結果として透明性は広がりません。
SLV v0.9.911 では、BAM クライアントの立ち上げと運用を、SLV の標準的なフローとして扱えるようにしました。これにより、BAM クライアントへの切り替えは、特定の運用者の知見や個別対応に依存するものではなくなります。
再現可能な形で導入できることは、検証可能な実行レイヤーを広く普及させるための前提条件です。本リリースは、BAM を思想としてではなく、実装として Solana の運用基盤に組み込むための一歩になります。
Epics DAO バリデータの運用状況

Epics DAO バリデータは、SLV を用いてすでに BAM クライアント運用へ移行しており、現在も継続して稼働しています。この事実は、BAM が構想段階の取り組みではなく、実際のバリデータ運用に組み込まれた状態で機能していることを示しています。
加えて、バリデータ運用の観点では、BAM クライアントを用いることで、トランザクションの取り込みおよび順序決定に関するロジックを、バリデータ本体の実行・投票処理から分離できる点も重要です。
従来、トランザクション受付や順序付けに伴う負荷は、バリデータの実行系と密接に結びついていましたが、BAM を介する構成では、トランザクション受付およびスケジューリングに関する処理負荷を切り分けて扱うことが可能になります。
これにより、バリデータは実行および投票処理に集中しやすくなり、負荷の性質が異なる処理を分離した形で運用設計を行える余地が生まれます。本件は性能向上を断定するものではありませんが、運用上の責務や負荷ドメインを整理するという点で、設計の選択肢が広がることを示しています。
今後について
BAM が目指す検証可能な順序決定と実行レイヤーの透明性は、Solana を機関投資家や業務利用も前提にできる実行基盤へ進めるための重要な要素です。
SLV は、その方向性を現実の運用に落とし込むための基盤として整備されており、今後も、バリデータ・RPC・ネットワーク・dApp を独立した最適化対象としてではなく、実行品質と信頼性を構成する相互依存な基盤として捉え、Solana の運用基盤を継続的に更新していきます。
- BAM (Block Assembly Marketplace): https://bam.dev/
- SLV 公式サイト: https://slv.dev/ja
- Validators DAO 公式 Discord: https://discord.gg/C7ZQSrCkYR

